大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成7年(ワ)2566号 判決 1998年7月27日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

理由

一  請求原因について

1  請求原因のうち、1、2(一)、2(二)(1)(但し契約日を除く。)、2(二)(2)及び3の事実は、当事者間に争いがない。

2  《証拠略》によれば、本件保険契約<4>の契約日は、平成四年九月一四日であることが認められる。

二  抗弁1について

1  普通保険約款等

《証拠略》によれば、抗弁1(一)の事実が認められる。

2  故意免責

(一)  本件建物

《証拠略》によれば、本件建物は、平成三年一二月一九日に建築された鉄骨造陸屋根二階建、床面積一階一七九・四八平方メートル、二階二〇三・八八平方メートルの店舗併用住宅であり、公社が宅地造成した朝日ヶ丘団地内に位置することが認められる。

(二)  出火状況等

(1) 本件第一火災

本件第一火災は、平成四年一二月一六日(以下、単に日のみを記載するのは同年同月のことである。)午後八時四〇分ころ発生したところ、その出火地点は、本件和室の北西角の焼損が最も強く、この場所を中心に扇状に焼けているから、本件和室北西角であると認められる。

(2) 本件第二火災

本件第二火災は、一七日午前四時三〇分ころ発生したところ、その出火地点は、本件洋室の南側の出窓から火が噴き出していたこと、本件洋室のクローゼット内の整理ダンスが焼け落ちていること、右二ヶ所の焼損が最も強いから、本件洋室南側出窓付近及び本件洋室西側クローゼット内の二ヶ所であると認められる。

(三)  出火原因について

(1) 本件第一火災

本件第一火災出火地点付近には火気使用設備はなかったこと、原告花子は喫煙者であるが、本件和室で喫煙していなかったこと、電気関係についても異常は認められず、漏電又は短絡が生じたとは考えられないこと、当時本件建物は無人であったこと、右出火地点には灯油三リットルないし四リットル程度がまかれていたこと、本件建物においては灯油は一切使用されていなかったことから、本件第一火災の出火原因は、何者かによる灯油を使用した放火であると認められる。

(2) 本件第二火災

<1>ア 本件第一火災当時、本件洋室には、クローゼット内にタンス等が置かれていたほか、特に可燃物は置かれていなかったし、本件建物は密閉されていて、酸欠による不完全燃焼状態が生じており、本件第二火災出火地点にまで、火は届いていなかった。

イ 消防署は、本件洋室の天井に穴をあけて、燃焼していないことを確認のうえ、念のため噴霧注水し、完全鎮火を確認したうえ、一六日午後一〇時四五分、現場を引き上げた。

松江市消防団古江分団は、一七日午前〇時一〇分ころまで現場に残り、警戒していたが、異常がなかったため引き上げた。

消防署は、一七日午前〇時二八分過ぎから午前一時までの間に、再度本件建物内部に入り、素手で温度確認する等したが、異常はなかった。

右古江分団団員であり、本件第一火災時に出動した長野重義は、一七日午前三時四〇分ころ、新聞配達の途中、本件建物の前を通り、本件建物の外観を観察したが、異常はなかった。

また、本件第二火災出火地点は、本件建物内で最も残火確認が容易な場所である。

ウ 燃え残りによる再燃が生じるのは、布団や屋根に使用されるフェルト等に火が残っており、空気に接することにより、再び燃え広がる場合が多く、一旦鎮火した後の再燃の場合は、水分が蒸発してからでないと、火が燃え広がらない。

エ 本件第二火災出火地点においては、床の土台部分の太い材木(大根太)が焼け切れるほどに、床面まで強い焼損が見られるが、火が燃え下がるには相当の時間を要するのであって、微小火源が発火してから右のような焼損状況に至るまでには、約一時間二〇分程度の時間を要するし、それより短時間で同程度の焼損状況を発生させるためには、何らかの助燃剤の使用が必要である。

<2> 右事実からすると、本件第二火災の出火原因は、本件第一火災の燃え残りの再燃でなく、何者かによる助燃剤を使用した放火であると認められる。

(四)  放火犯人について

(1) 本件火災放火犯人の同一性

前記認定事実からすると、本件第二火災は、本件第一火災の約七時間後、その出火場所の隣室内という近接した日時及び場所において発生していること、放火犯人は、本件建物内に入り込み助燃剤を使用して放火するという類似した手口を取っていること、本件第一火災は、放火・逃走が容易な本件建物一階や外壁部分でなく、二階中央部の本件和室が出火地点であり、本件第二火災も、同様、二階南側の本件洋室が出火地点であって、類似した手口といえること等からして、本件第一火災と本件第二火災の放火犯人は同一であると認められる。

(2) 本件建物の本件第一火災当時の施錠状態等

《証拠略》によれば、本件第一火災の際、消防隊が現場に到着した当時、本件建物は一階二階とも施錠されていたこと、外部からの侵入の形跡が認められなかったことが認められる。

そうすると、本件第一火災の放火犯人は、本件建物の鍵ないしその合鍵を使用して、本件建物に内部に入った上、放火したということができる。

(3) 本件建物の鍵の管理状態

<1> 《証拠略》によれば、本件建物の出入口としては、<1>一階店舗部分、<2>二階住居部分、<3>二階カラオケルーム部分の各玄関があり、<1>については三個鍵があって、一個は原告花子が所有し、残りの二個も本件建物内にあったこと、<2>、<3>については、専用の鍵がなかったため、原告らが各一個ずつ所持しているマスターキーにより開閉していたこと、原告らが本件建物の引渡しを受けたとき、建築業者から交付されたマスターキーは二個であったことが認められる。

<2>ア この点、原告らは、本件建物について、原告らが所持していた他に、二階及びカラオケルームの各玄関について各三個の専用鍵並びにマスターキー一本が存在するが、これらが所在不明であると主張し、その根拠として、甲第一六号証を挙げ、また、原告甲野花子もこれに沿うかのごとき供述をする。

しかしながら、甲第一六号証によれば、丁野夏夫は、原告らに渡したマスターキーの本数について、「本数までははっきり覚えていない。」、「マスターキーはお客の要望で本数を設定するので、その現場によって違う。」旨証言しているのであって、はっきり三本と言い切っているわけではない。

また、原告花子の右供述は、「原告らは、マスターキーが三個あるとの認識を有していなかったが、別件訴訟における丁原夏夫の証言により、ほじめて原告らが所持していたほかにもマスターキーが存在することが判明した。」旨の主張に照らし、採用できない。

イ さらに、原告らは、本件建物に他に侵入箇所がなかったとの保障はないと主張するが、これを裏付けるに足りる証拠はなく、採用できない。

<3>そうすると、本件建物の出入口については、<1>原告一郎が身につけていたマスターキー、<2>原告花子が身につけていたマスターキー、<3>本件建物一階鍵掛け棚に保管されていた本件建物一階玄関の専用鍵、<4>本件建物二階六畳和室内のタンスの中に保管されていた本件建物一階玄関の専用鍵の四本しか存在しないことになる。

<4> このうち、<1>及び<2>の鍵は、前記のとおり、本件第一火災発生時、原告らが所持していたのであるから、第三者による使用の可能性はない。

また、<3>、<4>の鍵は、本件火災当時、施錠されていた本件建物内にあったのであるから、外部から侵入した放火犯人がこれらの鍵を使用して本件建物に侵入することは不可能である。

<5> したがって、本件第一火災の放火犯人が使用した本件建物の鍵ないし合鍵は、原告らが所持していたものないし原告らが第三者に所持させていたものである蓋然性が高い。

(五)  原告らの動機

(1) そして、原告らには、次のとおり、放火を行う動機がある。

(2) 原告らの経済状態等

<1> 原告らは、大阪府寝屋川市《番地略》の宅地及び右土地上の店舗・居宅、丁原産業工場及びその敷地(同市《番地略》の宅地及び右土地上の事務所・作業所)並びに和歌山県白浜の別荘地を所有し、原告太郎が丁原産業において、高麗人参ドリンクを製造し、原告花子が高柳物件において、喫茶店兼カラオケスナック「戊田」を営業し、生計を立てていた。

丁原産業株式会社は、年商五〇〇万円ないし六〇〇万円の会社で、従業員はおらず、申告納税額はいつもゼロであった。

<2> 原告らは、公社が分譲する朝日ヶ丘団地内で、コンビニエンスストアを経営することを計画し、公社から、平成二年九月三日、用途指定コンビニエンスストア用地として、利便施設用地である本件建物の敷地を、代金一一二二万四八九七円で買い受けた。右売買契約締結に際し、公社を買戻権者とする期間一〇年間の買戻特約が締結された。

原告らは、増原産業に、右土地上に、本件建物を、約八〇〇〇万円の建築資金で建築させたが、右敷地購入資金及び本件建物の建築資金には、平成四年一月二四日、高柳の土地及び建物を約五〇五〇万円で売却し、右土地及び建物に設定されていた極度額三〇〇〇万円の根抵当権を抹消した残金及び同じころ売却した白浜の土地の代金約三八〇〇万円並びに四八〇〇万円の借入金を充て、本件土地及び建物に同額の根抵当権を設定した。

右借入金の毎月の返済額は、三二万五八一七円であった(争いのない事実)。

<3> 原告らは、一郎夫婦が、本件建物一階において、コンビニエンスストアを営業し、原告花子が、本件建物二階において、喫茶店兼カラオケスナックを営業し、原告一郎が丁原産業において、高麗人参ドリンクを製造するとともに、右コンビニエンスストア及び喫茶店兼カラオケスナックの仕事もして、生計を立てる計画を立てており、右コンビニエンスストアにおいては、米穀、酒類、たばこの販売許可を取得して、これらの販売を行う計画であったが、同団地内に自らの居住用建物と用途を指定された土地を有していた丙川が、既に指定された用途の変更を受け、平成元年三月二三日、たばこ小売販売営業許可を受け、営業を開始していた。また、同人は、公社に対し、平成二年一〇月一八日、酒類販売業免許取得申請に必要な書類の交付を申請しており、その後米穀の販売も開始していた。

そこで、原告太郎は、同月二六日、同様に公社に必要書類の交付を申請するとともに、平成三年七月六日、本件建物の建築工事に着手し、同年九月一八日、同年一一月三〇日及び同年一二月三日、公社に対し、利便施設用地は土地の価格が高いのであるから、利便施設用地以外に入居しているものが商業等を行えないようにすべきであって、丙川を排除し、自分以外に酒類販売営業許可が与えられないように措置するよう要求した。

原告太郎は、平成四年一月八日にも同旨の申入れを行い、同月二四日には、本件建物及びその敷地を丙川に買い取らせるか、公社が買い取ること並びに原告らの受けた損害を賠償することを要求する一方、島根県に対し、丙川の米の販売営業権を取り消すよう要求し、さらに同月二九日にも同旨の要求をした。

<4> 原告らは、平成四年一月、「乙山」を開店したが、その月間売上高は、当初の計画を下回り、同年三月には三〇〇万円を割り込み、開店当初にいた四名の従業員も全員まもなく退職した。

原告らは、平成四年五月、本件建物建築代金一七〇〇万円の不払により、本件建物を建築した増原産業から建築代金請求訴訟を提起され、そのころ、丙川が酒類販売業免許取得した。

原告太郎は、公社に対し、平成四年五月一八日、本件土地の買戻しないし契約の解除並びに建物の建築費用の支払及び原告らが被った損害の賠償を要求し、同月二九日にも、「乙山」の営業を中止せざるを得ないと判断した旨告げて、同旨の申し入れをした。

原告らは、平成四年六月、刺身の取扱いを中止し、同年八月の月間売上高は二〇〇万円を割り込んだ。

一郎夫婦は、そのころから、「乙山」の経営に見切りを付け、大阪方面で職探しを開始した。

原告らは、平成四年一〇月には、クリーニング業者とのトラブルが原因で、クリーニング取扱業を中止した。

原告太郎は、公社に対し、平成四年一〇月一四日、二億三二六九万六九〇六円の損害賠償を、脅迫的言辞をもって強硬に要求したため、公社は、以後の対応を弁護士に委任した。

太郎夫婦は、平成四年一二月八日、本件和室及び本件洋室に置いていた荷物を運び出し、大阪方面に引越した。

<5> 右のとおり、本件火災当時、「乙山」の経営状態は危機的状況に陥り、将来の見込がない状態であったこと、増原産業から一七〇〇万円の支払を求める訴訟を提起されていたこと、本件土地及び建物について四八〇〇万円の抵当権を設定しており、月三二万円余の支払を請求されていたこと、原告らとしては、「乙山」の経営以外の収入の途は、丁原産業しかなかったが、その営業規模は小さく、それだけで原告らの生活を維持するのは不可能であったことが認められるのであって、原告らの経済状態が悪化していたということができる。

(2) 保険契約の締結状況

原告らは、本件保険契約<1>ないし<4>及び<6>を締結していたので、本件保険契約<5>の締結をもって、本件建物等について締結された保険契約の総額は、一億九三二五万円となった。

本件保険契約の保険料は、それぞれ、<1>三四万五三〇〇円、<2>二二万九一〇〇円、<3>一万五四〇〇円、<4>月額二九四〇円、<5>八五五〇円、<6>一四〇万四八〇〇円である。

また、本件保険契約<3>ないし<5>は、特に被告らの勧誘がなかったにもかかわらず、原告らが、積極的に申込んで締結されたものであり、特に、本件保険契約<3>は、原告らが、高柳の土地及び建物について締結していた保険の目的物を本件建物に変更するよう要求して、締結に至ったものである。

(3) その後の行動

本件火災の被害について、損害調査書には、建物三七七六万七〇〇〇円、収容物二一四二万円、合計五九一八万七〇〇〇円と記載されているが、原告太郎が作成した罹災損害届出書には、本件建物の建築費用八六〇〇万円、保険金額一億三〇〇〇万円、本件火災の損害額は、建物八六〇〇万円、収容物約四〇〇〇万円と記載されている。また、右原告太郎の届け出た損害の中には、カラオケ機械一式一八五万円、レーザーディスク二一〇万円の焼損も含まれているが、これらは焼損範囲に含まれていないカラオケルーム部分にあったと思われる。

また、罹災証明書には、本件建物の建築面積二〇四・一三平方メートル及び延面積三八六・三九平方メートルに対し、本件火災の焼燬面積は一七一・四二平方メートルであって、半焼であると記載されているにもかかわらず、原告らは、一貫して本件建物は全焼したと主張し、それに応じた保険金の支払を求めている。

さらに、原告らは、平成五年四月一六日、大阪地方裁判所に対し、公社を被告として、本件土地売買契約の解除を理由に、一億七八二二万四八九七円の損害賠償を求める訴訟を提起し、右訴訟係属中の平成五年九月一日、被告協会から、同年一〇月一四日、被告会社及び被告組合から、それぞれ保険金等の支払を留保する旨の連絡を受けたが、法的措置をとらず、平成七年一月二〇日、右訴訟について原告ら敗訴の判決が言い渡された後である同年二月一〇日になってはじめて被告らに右支払を催告し、支払を拒絶されるや、同年三月一六日、本件訴訟を提起した。

(4) 過去の保険金取得歴

原告らは、昭和五二年ころ、高柳物件が近辺の火災により被害を受けたため、千代田火災から、二〇万円以下の保険金を受領したことがある。

また、その後、高柳物件に空き巣が侵入し、扉を毀損したので、二、三万円程度の保険金を受領したことがある。

(六)  アリバイの主張について

(1) 本件第一火災当時のアリバイ

<1> 原告らは、自動車で本件建物から出発し、平成四年一二月一四日午後一時前ころから午後三時過ぎまで、御坊支部における調停に出席した後、松江に戻る途中、大阪に立ち寄り、甲田松子、乙野竹子及び丙山梅子と大阪府寝屋川市萱島の喫茶店で小一時間話した後、右乙野及び丙山とともにカラオケに行き、午後一一時ころまでいた後、同店を出て同人らを自宅まで送り届け、大阪で宿泊し、一五日午前九時三〇分ころから午前一一時ころまでの間、丁原産業において冷蔵庫の修理に立ち会った後、一五日午後、松江に戻り、同日の午後九時より早くない時刻に再び丁原産業に行くため大阪に向け自動車で出発し、一六日午後八時ころ乙野竹子と大阪府寝屋川市萱島のカラオケボックス「ザウルス」に行き、午後一一時すぎまでいた後同人を自宅まで送り届け、同時刻ころ、丁野からの電話を丁原産業で受け、本件第一火災の発生の連絡を受けた。

そうすると、原告らは、本件第一火災発生時、現場にいなかったということができる。

<2> しかしながら、《証拠略》によれば、本件火災後、本件第一火災出火場所付近の板に円形の穴があいた合板の板が残されていたが、火災によって板の一部にのみ穴が空くことはありえず、右穴の周辺部分からろうそく等の固形燃料又はその相当品が検出されたことが認められる。

そうすると、右板は本件火災発生前に人為的に穴があけられ、この板とろうそく等の固形燃料物等とで何らかの時限発火装置を作り、これを使用して放火がされたことが推認される。

<3> そして、《証拠略》によれば、ろうそく等を使用した時限発火装置により、着手後二四時間程度出火時刻を遅らせることは可能であると認められるところ、前記のとおり、原告らは、少なくとも、一五日午後九時までの間、「乙山」にいたのであるから、その間、本件建物に、なんらかの時限発火装置を設置することは可能であったし、その際設置した時限発火装置によって、一六日午後八時四〇分ころ、発火させることも可能であったといえる。

のみならず、原告らの供述によると、自動車による松江の「乙山」と大阪府寝屋川市の丁原産業間の所要時間は、往路が一〇時間程度、復路が五ないし六時間程度というのであるから、原告らが松江の「乙山」を出発した時間は、一六日午後八時ころの五時間ないし一〇時間程度前であった可能性も否めないことになる。

そうすると、五時間ないし一〇時間程度発火時間を遅らせることのできる時限発火装置があれば、原告らが本件第一火災の放火犯人たり得ることになるから、なおさら原告らによる放火の可能性が高くなる。

いずれにしろ、原告らが本件第一火災発生当時現場にいなかったことと原告らが本件第一火災の放火犯人であることとは矛盾しない。

(2) 本件第二火災当時のアリバイ

<1> 原告らは、本件第一火災の連絡を受けた後、松江に向かい、一七日午前四時三〇分ころ、本件建物から自動車で遅くとも二〇分以内の距離にある宍道湖大橋付近に至ったが、疲労のため路肩に車を寄せて駐車し、しばらく眠ったと主張し、原告太郎本人尋問の結果(第一回)及び原告花子本人尋問の結果がこれに沿うが、生活の本拠であり、主な生計の途である自宅兼店舗が火災にあったと聞いた者が、いくら疲労していたとしても、自宅に至る直前で睡眠をとるという行動をとるのは不自然であり、認められない。

(七)  まとめ

前記認定の事実によれば、本件火災はいずれも放火によるものであるが、本件第一火災発生時、本件建物は施錠されており、本件建物の鍵は、原告らのみが所持していたこと、本件火災の出火地点は、本件建物二階の住宅部分中央部及び南側という侵入・逃走が容易とは思われない場所であること、本件火災は本件保険契約<3>の締結日及び一郎夫婦の引越し直後に、それまで一郎夫婦の荷物が置いてあった本件和室及び本件洋室において発生していること、本件保険契約<3>ないし<5>は、それ以前に締結された本件保険契約<1>、<2>及び<6>に比して、少額の掛金で、高額の保険金を受領できる内容のものであること、これらの契約は、いずれも原告らの申出により締結に至ったこと、「乙山」の経営が行き詰まり、原告らの経済状況は危機的状況にあり、原告らには、新たな事業を経営する資金調達のために本件保険金等を得る動機があったと認められること、原告らの本件火災前後の行動には不審な点が見られること、本件第一火災については、何らかの時限発火装置が使用された状況があること等が認められるのであって、これらの諸事情を考慮すると、本件火災は、その具体的な放火方法は不明であるものの、原告らの関与の下に、その意向に基づく放火によって発生したものと推認するのが相当である。

3  そうすると、抗弁1は認めることができ、被告らは、原告らに対し、本件火災によって生じた損害について保険金を支払う義務はないことになる。

三  以上によれば、原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成一〇年四月二七日)

(裁判長裁判官 若林 諒 裁判官 松井英隆 裁判官 森岡礼子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例